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ブラックボックス

2013年05月10日
篠田節子著「ブラックボックス」(朝日新聞出版刊)を読了しました。
<引用開始>
サラダ工場のパートタイマー、野菜生産者、学校給食の栄養士は何を見たのか?
会社の不祥事で故郷に逃げ帰ってきた元広告塔・栄実、どん詰まりの地元農業に反旗を翻した野菜生産者・剛、玉の輿結婚にやぶれ栄養士の仕事に情熱を傾ける聖子。真夜中のサラダ工場で、最先端のハイテク農場で、閉塞感漂う給食現場で、彼らはどう戦っていくのか。
食い詰めて就職した地元のサラダ工場で、栄実は外国人従業員たちが次々に体調不良に見舞われるのを見る。やがて彼女自身も……。その頃、最先端技術を誇るはずの剛のハイテク農場でも、想定外のトラブルが頻発する。
複雑な生態系下で迷走するハイテクノロジー。食と環境の崩壊連鎖をあぶりだす、渾身の大型長編サスペンス。週刊朝日連載の単行本化。
http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=14536
<引用終了>
篠田節子の作品を読むのは「仮想儀礼」以来です。
最近よく見聞きされる「攻める農業」や「TPP」。さらには「遺伝子組み換え作物」に「食と安全」「残留農薬」「産地偽装」など等、食を巡る話題は常にホットで様々な課題を抱えています。

物語は、関東の地方都市の深夜のサラダ工場の過酷な勤務の様子からスタートします。
おお、これは桐野夏生「OUT」の出だしに似ているではないか。あんな感じの陰惨な話なのかな、と身構えつつ読み進んでいきます。
しかし、大きなアクシデントやら仰々しい殺人事件が起こるわけではない。だけど、なんとなく怖い。じわじわとくる怖さがこちらを包み込みます。

簡単に想像できるでしょうか?太陽を浴びず、土に根を下ろさず、虫はおろかバクテリアすら存在しない無菌空間で、花をつけずに短期間で結実していく野菜・果物の姿を。ここではありありとそれらが描かれます。
安全・安心を追求した結果の選択肢。でも、それだけでなくコストとか効率性とか、ボリュームとか、そんな条件クリアを課されたそれらの“製造物”を我々は口にするかもしれない、或いは既にしているのです。

しかもそれらは、けっしてただの農作物ではない。無農薬有機というプレミアムをつけられ、都会消費地に高値でデリバリーされます。金で購う安全と安心がある。

農協に依存し成長力と後継者を失った既存農業。前例踏襲しかない、非イノベーティブな農政、株式会社参入を目指す鵜の目鷹の目の有象無象たち。そして深夜の重労働に研修の名目で低賃金で酷使される外国人たち・・・。

日本農業に顕在する端的な歪みを描きつつ、物語は終局へと向かっていきます。

印象的な描写や台詞はいくつもありますが、例えばこれなどもそう。
ヒロインが、かっての同級生でハイテク農場を運営している男に言います。

“「技術が高度になればなるほど、システムが複雑に巨大になればなるほど、問題点も因果関係も捉えにくくなる。でも現実には、あきらかに悪いことが起きている。何か一つが原因でもなければ、特定の犯人がいるわけでもない。あちこちで危険度がほんの少しずつ上がって、それが相乗的に作用して病人が増えたり死人が出たりというところまで行ってしまう。でも原因と結果が一対一で結び付けられないから、因果関係を証明できず、規制もかけられない。何もかも人智を超えた神様の世界に見えてくる。私たちには理解することも、まずいと気づいたから調整するってこともできない。もちろん自然だってそうだけど、自然って、無駄と緩みとスキだらけじゃない。でも三浦君のやってるハイテク農場みたいのって、立ち上げにも操業にも金がかかるから、そんな無駄や緩みなんてどこにもない」”

農業を、二次産業と同列視することは非常に危険である、まして攻める農業などと根拠無く誉めそやすことは絶対にできないなあと読んでいて思わされました。生命に関わる根源的な恐怖心が湧き上がってくるのです。

怖い、けれどすごく面白い。ご一読をお勧めします。

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